それでもまだ奇跡の起こっていない人へ

お茶づけ・英語づけの生活は,おそらくまだ続きます。

「夢をかなえる」自分になる あなたの願いを実現させる17の秘訣

 

ボタニカルな表紙が目に止まった。カップを包み込む手と「Life by the Cup」の文字に,これはお茶かコーヒーの本だなという期待を持って帯を読む。そして序文も読まずに購入した。お茶の本だったのだ。

 

「夢をかなえる」自分になる

「夢をかなえる」自分になる

 

 

病気の息子を持つシングルマザーが,全米最高のお茶ブランドを立ち上げて成功するまでと,成功した後についての実話。先祖がウクライナのジプシーであることに誇りを持っている彼女は,世界中を旅している気分になるお茶と周りでジプシーが踊ってるカフェ(説明が煩雑)のイメージが浮かび,それを実現しようとしていくうちに,ブレンドティーの才能に目覚め自分の名前を冠したブランドを立ち上げていくのが前半部分。

ある程度生活に困らないレベルに達するのだが,もしカフェの経営に終始していたら彼女はそこまでだったと思う。

 

もう一つ流れている軸は,スリランカの茶畑で働く人々との繫がりである。メインテーマかもしれない。お茶の質に感動し,茶葉を手で摘む女性やその子どもに想いを馳せる。少し経営が形になってきた頃に茶畑に赴き,最高のメンターとの出逢いもあり,事業が一気に上向く。

オーガニックやフェアトレードという単語は話の前半から頻出していて,彼女はもとから奉仕精神が旺盛だったように思う。ただ,インドでは無償で奉仕活動をしている人々に出逢ったときの衝撃や,売り上げのことしか考えられない一時期の自分のことも,隠すことなく書いてある。そして物語の終盤,「自分自身が思っていた自分とは違うことを理解した。私の人生は,私が中心なのではなかった。」と,奉仕すること自体が自分の人生の目的だったと気づく。

なぜ「彼女」が「お茶」ビジネスでその茶畑に貢献することになったのか。運命とか使命と彼女が呼ぶものに呼び寄せられていき,成功していくのが後半部分。

 

全部で17章に細かく分かれているが,その全てで彼女は常に何かに不安を抱いている。その中で毎回違う人に出逢い,彼らの親切や言葉に触れることで章の最後では解決する,という繰り返しなのだが,本人にとっては決して単調でないそれらの瞬間こそが彼女の人生の豊かさなのだ,と思わされる。

帯には「人生に奇跡を起こす方法」なんて書いてあるものの,「最初から奇跡ばっかりやないか」と思ってしまう読者に向けてか,カバーのそでにはアインシュタインの「何もかもが奇跡のように生きることだ」の文字。全ての答えは読む前からそこにあった。実際に全てのエピソードが,出てくる人全員が彼女の成功に関わっていると思える書きぶりなのである。こういった物語が全て一人の人間に起こったことは,単純にわくわくする。

 

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途中から売り上げがポンポン上がっていき,実話なのに現実味があまりないものの,オーガニックブームが来る前から有機栽培の素材にこだわっていたことや,ブランドの方向性を切り替える判断などには,彼女が成功した理由が見えてくる。高級志向のお茶が住宅バブルの崩壊で売れなくなったとき,"自分はそもそもディスカウントショップで育ってきた人間だ"と方向転換したときのように背伸びに気づくことも含め,非常に自覚的な人なのだ。

本人も言っている通り,スリランカのある茶畑という世界のほんの一部を変えるだけでもそれだけ大変なのである。ただ,人の価値や大きさは救った範囲で決まるのではない。些細な瞬間を繋いだものが人生だし,ちっぽけな人間同士で最大化した幸せは本人たちの大きさを上回る。これはお金持ちのサクセスストーリーではなく,一人のシングルマザーが人生を最大化していく最中の心の機微を描いた話なのだと思った。

 

全ての章が「章に関係あるお茶の話」「自伝部分」「夢を叶える魔法の言葉」「エクササイズ」そして章の教訓を的確に示す名言の数々で構成されている。瞑想やスピリチュアルな話がよく出てきたり,曖昧でふわっとした表現が見られるものの,「夢を叶える魔法の言葉」のページはカッチリ書かれているので,読んでいて手応えがある。頭の中でかなりの思考をしている人だなと感じられなかったら,私はこの本の書評を書いていないだろう。

 

例え話がたいていお茶なので,受け付けない人もいるかもしれないけれど,私はジャケ買いの成功例だと思う。熱心に作り込まれた感があるのも他の自己啓発書とは一線を画していると思うので,本棚に加えたい系の一冊。

ただ,著者本人が「チリチリ頭の出っ歯」と称してたため強烈な見た目のウクライナ女性を想像しながら読んでいて,残り2章ぐらいのところでググったら全然違う人が出てきて,最後は違和感の中読み終えた。これから読む方は先に顔写真を見た方がいいかもしれないし,私の場合は強烈な人を想像しながら読んだからこそ面白かったのかもしれない…。

 

Life by the Cup - Zhena Muzyka

(めっちゃ重いペライチサイトが開きます。本名のZhena Muzykaで検索した方が速い!)