足りない論理力の代わりに。
Markとの会話はいつも通りだった。
彼の発言を日本語に訳すとこんな感じ。
「1億手に入るけど,紫の水が出続ける穴が頭にできたらどうする?」
最初何回も聞き返して,わざわざタイプしてもらったけど,そもそも意味が分からない質問だったということが分かった。
「何言ってるのか分かんないけど,お金があったら何するかってことよね?自分用の茶室や日本庭園を作るかな。でも紫の水が頭から出てたら友達もいないだろうし,(お茶会しても)誰も飲みにこないよね。」
「purple liquid?」
「なんでだよお茶をだよ!!!!」
「ともだちだから水のみます」(なぜかここは日本語)
「お茶だけでいいよ!!!!!」
彼がさらに質問をたたみ掛けてくる。
「3000年生きられるけど一生ポテチしか食べられなかったら?」
「ああ,これはいいかな。
毎日食べ続けて太るのが気になるけど,いつか飽きるから食べなくなるでしょ,他のものも食べないから痩せて,そのうちまたポテチも食べたくなるよ。いい循環じゃない?」
しかしこの解答は楽観的すぎて納得してもらえないので,さらに言葉を重ねる。
「最近,ランチとかして友達と過ごすためにご飯を食べてるんじゃないかと思うときがあって。もしかしたらうちらは,特にちゃんとご飯食べなくても生きていけるかもしれないよね。でも一人で生きてても時間を持て余すから,結局一人でもご飯食べてると思う。
うちらは毎日何を着るか何を食べるか考えなきゃいけないけど,ポテチしか食べないなら食べ物のことを考えなくてよくて,その分他のことを考えられるよね。」
あたしの頭には,毎日同じ服を着て服に使う時間を極限まで減らしてる某ザッカーバーグが浮かんでいる。こっちのMarkはまだ納得しない。あたしの理論は「時間を持て余してる」のに「ご飯の時間を他のことに回す」という自己矛盾を内包しているから。
全く流暢じゃない英語でさらに頑張る自分。
「なんでうちらがご飯をたくさん食べないといけないと思ってるかっていうと,栄養を摂らなきゃいけないからでしょ?でも今回の場合,ポテチばっか食べてても3000年生きられる。不健康な生活をしてても長生きできるから,栄養のことを考える必要がない。ポテチだけ食べてても生きる上では問題が無いから困らないし,アリだと思う。」
「even purple liquid?」
「まだ紫の水出てんのかよ!!!!!!
(ここは日本語でつっこんでしまった。)
えっと,でもこの場合は構わない。頭から水出てたらみんなに笑われるだろうけど,自分は3000年生きるから,周りより長生きするでしょ?歴史は長生きした方の人によって語られるものだから,気にしないよ。」
やっっと納得してくれた。
*
他の海外の友達もそうだけど,あたしが根拠の薄いことを言うとすぐwhy?って訊いてくれるのも,ある意味ありがたい。理由をすぐ明文化しなきゃいけないのも訓練になるけど,その理由を話す時間がたっぷりある会話もとても好きだ。その余裕が無い会話はたいてい,話した後に「あれ言わなきゃ良かった」と思いがちだから。
Markとの会話は「言わなきゃ良かった」と後悔することが無くて,本当に楽だ。